化学

2009年1月29日 (木)

タンタル(tantalum)

タンタル(原子番号73、元素記号Ta)は、A. G. Ekeberg(Swedish Chemist, 1767-1813)がニオブ(Nb)との混合物として発見(1802年)、後にH. Roseが単体分離(1846年)した元素です。現代の産業において重要な金属の1つで、例えば携帯電話中のコンデンサや人工骨や歯のインプラントの材料になります。「タンタル」の名称の由来については以下の2つの説があります。

①じらされ説
Ekebergがタンタルの発見に至るまでに非常にじらされたことから。当時の話:“This element (= tantalum) was hard to locate; its tracking down was a tantalizing task. Hence he named it tantalum.”

②耐酸性説
タンタルが耐酸性・耐食性に優れている(例えば王水に不溶である)ところから。ギリシャ神話で、ゼウスの子タンタロス(Tantalus)が、父の秘密をもらした罰として地獄で飢えと渇きに耐えたことにちなんでいる。これは英語の動詞「tantalize」の語源でもある。

個人的には①が先で②はあとづけかなという気がしていますが、いずれにしてもタンタル(tantalum)がtantalizeやTantalusと関連のある名称だということは興味深い事実です。

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2009年1月12日 (月)

ギリシア/ラテン語由来の色

かなり昔に発見されたカラフルな化合物にはしばしばギリシア語またはラテン語でその色を意味する接頭辞がついています。ちょっとマニアックかもしれませんが、主だった例を挙げてみます。---(参考:現代化学2008年11月号,p.47)

albo- / argenti- / leuko-

amauro- / atri- / cani- / cinereo- / glauco- / polio-

melano- / nigri-

coccino- / eo- / erythto- / flammeo- / rhodo- / roseo- / rossi- / rubri- / rufi- / rutuli-

aureo- / chryso- / cirrho- / flavo- / fulvi-

fusci- / luteo- / ochreo- / xantho-

chloro- / prasini- / viridi-

ceruleo- / cyano- / iodo- / violaceo-

porphyro- / puniceo- / purpureo-

興味深いことに、今回挙げた例では、続く語幹との接続は必ず「o」か「i」を介しています(40個のうち「o」が28個、「i」が12個)。これらのうち個人的に気になった接頭辞は・・・

leuko- [lú:k(ou)-, -k()-/ljú:-]→leukocyte(白血球)。leuco~とも。

viridi- →絵の具のviridian(ビリジアン)は深い青緑色。
       (絵の具に「緑色」がないのはなぜでしょうか?)

chloro- chlorophyll(葉緑素)。染料にも使用。

argenti- Argentina(アルゼンチン)は「白」に間接的に関与。
→独立当時の名称は「リオ・デ・ラ・プラタ連合州」
 *Río de la Plata(スペイン語)=の川
→銀をラテン語のArgentumに変換(スペイン色を払拭するため)
→地名表現のため女性名詞化してArgentina 
 つまりラテン語で「白い金属」が銀だったわけです(-um/-iumは金属を意味する接尾辞:例外はhelium)。ちなみに「銀」の元素記号はラテン名に基づき「Ag」。cf. argent 銀(の)

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2008年12月28日 (日)

アーセナル

アーセナルと聞くと、まず連想するのが英国のサッカーチーム名「Arsenal」。arsenal貯蔵武器(庫)・在庫ですが、その昔、砲兵工場のチームとして発足したのがその名の由来だそうです。もう1つ連想するのは毒物として悪名高いarsenic(ヒ素)です。
これらは2つとも形容詞っぽい語尾をした名詞(arsenicは形容詞もあり)ですが、arsenという語幹があるわけではないようです。ということで、今日の一句。

arsenic arsenal ヒ素の在庫

日常ではまず使うことはない表現ですが、自作Rhymeの頭韻型ということで。

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2008年12月14日 (日)

ChemDraw(Ver.6以前)によるマス計算の注意点

電荷をもつ化学構造式について、ChemDraw(Ver.6以前,CambridgeSoft Corp.)の「Analyze Structure」で算出するExact. Massは電子を考慮しません(電荷表示は計算に反映されない)。すなわち、マスの検出イオンが+イオンであれば電子1個分のマスを引いて算出しなければなりません(-イオンなら加算)。

 電子1個の質量は9.1093897×E-28 g。これにAvogadro定数=6.0221367×E+23を乗じて統一原子質量単位(u)に換算すると 0.000549 u(いわゆる0.549 mmu:)となり、通常0.0001 uの桁まで表記するHRMS(ハイマス)では真値からのズレが問題となります。 
 一方、ChemDraw(Ver.7以降)では電荷を書けば「Show Analysis Window」で電子を考慮したマスが得られます。

 ちなみに、マスの測定機器には理論値算出のための処理プログラムを搭載している場合がありますが、電子まで考慮するかどうかはメーカーによって異なるそうなので注意が必要です。

mmu(ミリマスユニット)は慣用単位。現在の国際単位系(SI)の規則では、u(統一原子質量単位)またはDa(ダルトン)の使用が推奨されている。したがって、1 mmuは 0.001 u もしくは1 mDaと表記されるのが好ましい。

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2008年1月27日 (日)

meter

以前、barometer を取り上げましたが、今回は「meter」を含む複合語について、単語のアップデートをし、さらにアクセントの問題ももう少し考察してみたいと思います。
meter」はアルクの語源辞典によると、ギリシア語のmetron(=measure)由来の語で、①何かを計測する機器(-meter)、②(計測した結果の)長さの単位(meter)を意味します。ちなみに、「ネイティブの「造語力」を身につける!」という本には「ラテン・ギリシア語由来」という記述がありましたが、ラテン語の直系ならmetorとなっていてもよさそうな気もしました。

計測機器系-meter の直前の音節にアクセント
 日本語の感覚とかなりズレたものもあるので要注意です。

altimeter 高度計
anemometer 風力計
audiometer 聴力計
barometer 気圧計/バロメーター
chronometer (高精度)腕時計
hygrometer 湿度計
manometer 圧力計(blood pressure ~で血圧計)
micrómeter 測微装置/精密測定器(②の項も参照)
odometer オードメーター・走行距離計
parameter パラメータ(ー)、変数
pedometer 歩数計
perimeter 視野計/(飛行場・基地の)周辺
seismometer 地震計(地震のサイズもう見た?)
speedometer 速度計
 *発音が気になる方は→こちら(衝撃です!)
thermometer 温度計
tachometer タコメーター(回転速度計)
telemeter 遠隔計器

単位系第一音節にアクセントの傾向
 おそらく初めは接頭辞のアクセントが優先されていたものが、①の語形成の流行とともにアクセントパターンが①へ移行する現象も出てきたのではないかと考えられます(ex. kilometer)。 

céntimeter センチメートル(cm)
kilómeter キロメートル(km) *例外的なパターン
 *[ki]を強める発音もあり(byクリスさん)。
míllimeter ミリメートル(mm)
mícrometer マイクロメートル(μm) *0.001mm
nánometer ナノメートル(nm) *0.001μm

今回とくにおもしろいと思ったのは、micrometer です。これを単位として使う場合、辞書にはたいてい①のパターン(micrómeter)が載っていますが、先日仕事でイギリス人(男性,30歳前後)のプレゼンを聞いていたら、やはりmícrometer と発音していました。もっとも、彼はほとんどの場合、同じ意味でmicron [maikran] を連発していました。やはり口語ではmicrometerは長すぎるようで、その辺りは日本語の「ミクロン」と同じだと思いました(発音は違います)。
また、-metryは測定法の意味の接尾辞で不可算名詞を作ります。この関係は、-graph(記録のための機器)と-graphy(記録法)と同じです。

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2007年12月23日 (日)

3M

今回は化学から学ぶ英単語として、Mで始まる単語を3つ取り上げます。

manganese マンガン(陽イオン)
mangan(マンガン)→manganese(マンガン陽イオン)で、これはJapan→Japaneseの変化を連想させます。一般的な形容詞形はmanganous
manganese battery マンガン乾電池
manganese bromide 臭化マンガン
関連情報として、最近のマーシャ先生の「ものしり」では、ダリルさんが、ASAPやFYIなどの略語(いわゆるNetspeak)を記者仲間同士で「cable→cablese(ケーブル語)」と呼んでいたと紹介していました。

methylate メチル化する
化合物中にCH3で表される置換基(methyl group)を化合物に導入することを指します。「NaOMe(ナトリウムメトキシド)」を慣用的に「methylate(メチラート)」と言ったりします。なお、一般に名詞の語尾の-ate は職を表すそうです。
secretáriate 事務局/書記・秘書(の職)
the United Nations Secretariat 国連事務局
ちなみに、コンビナートはロシア語(kombinat)から。

mosaic gold 硫化第二スズ(化学式:SnS2
正式名称はtin(IV) sulfide(またはstannic sulfide)。名の由来については、この結晶が金色で、おそらくモザイク状なところからだと思います。mosaicはいわゆる「モザイク(の)」ですが発音は[mouze'iik] 。偶然にも?出エジプト記(the Exdous)で有名な「モーセ(Moses)の律法」はMosaic lawで、mosaicと発音・綴り(Mは大文字)が同じです。

※補足:スズ(tin)は2価と4価があり、形容詞形がそれぞれstannous(第一スズの)とstannic(第二スズの)で異なります。

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2007年12月 2日 (日)

ブロマイド&クリプトン

 化学と関わりの深い英単語もたくさんあるようです。今回は元素周期律表(periodic table of the elements)でお隣同士の臭素とクリプトンを取り上げてみます。

bromine [bro'umi:n] 臭素(Br,元素番号35)
 ギリシア語のbromos (悪臭)から命名。臭化物はbromide[bro'umaid]と総称されます。bromideは、写真の現像時に用いられる臭化銀silver bromide(臭化銀)→写真で焼き増しするように「平凡な人、陳腐な考え」に意味展開したと考えられます。形容詞形はbromídic [broumi'dik](平凡な・陳腐な/臭化物中毒の)。なお、日本語の「ブロマイド」は限定的にアイドル等の写真を意味する和製英語です。      
余談ですが、いろんな辞書に、昔は毒性のある臭化カリウム(potassium bromide)が鎮静剤として服用されていたという記述がありました。かなり驚きの事実です。

krypton クリプトン(Kr,元素番号36)
 ギリシア語のkryptos(隠れる)から命名。不活性ガス。よく白熱電球のフィラメントの昇華を防ぐために封入されます(クリプトンランプ)。重い気体のため、吸うと声が低くなるそうです。また、スーパーマンの故郷クリプトン星(Krypton)の名の由来にもなっています。さらに、スーパーマンにはクリプト(Krypt?)という飼い犬(クリプトン星産)?がいるそうです。
英単語としては、語源が同じと考えられるcryptic(謎めいた・秘密の/もったいぶった)という形容詞をはじめとして、以下のようなものがありました。

crypt 教会の地下室/納骨堂
cryptic 秘密の・謎めいた/もったいぶった
cryptogam 陰花植物
cryptogram 暗号文
cryptology 暗号

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2007年7月18日 (水)

barometer

この記事の更新版はこちら

 「健康のバロメーター」のように、今では一般的な日本語としても使われる barometer は元々「気圧計」の意味でした。また、~meter で終わる単語は -meter の直前の音節にアクセントがあるという傾向が強いようです。これは日本語の感覚とは少し違ったイントネーションです。

altimeter 高度計
anemometer 風力計
audiometer 聴力計
barometer 気圧計/バロメーター
hygrometer 湿度計
kilometer キロメートル(km)
 *[ki]を強める発音もあり。以下の単位系は最初にアクセント。
 ・centimeter センチメートル
 ・nanometer ナノメートル
manometer 圧力計(blood pressure ~で血圧計)
odometer オードメータ・走行距離計
parameter パラメータ(ー)、変数
pedometer 歩数計(以前、ビジ英の高橋修三さんの企画で出てきました)
perimeter (飛行場・基地の)周辺
seismometer 地震計(サイズミター)
speedometer 速度計
 *この発音は衝撃的!気になる方は→こちら
thermometer 温度計
tachometer タコメータ・回転速度計
telemeter 遠隔計器

◆「地震の」の意味の形容詞 seismic は「サイズミック」と発音する要注意の単語ですね。cosmic(宇宙の)のコズミックに少し似ています。

似たアクセントパターンとしては以下のような単語があります。
distributor 配布者/販売業者
 *「tri」にアクセント。気になる方は→こちら
astronomer 天文学者
 *「tro」にアクセント。astronomy(天文学)も同様。

さて、ビジネスシーンでは、日本語を話す時になぜか横文字を使うのが非常に好きな方がいます。例えば、「この場合のプライオリティはね・・・」、「現地のディストゥリビューターが・・・」という具合。でも残念ながら、この「distributor」を正確に発音している日本人にはあまり出会ったことがありません(杉田先生は当然きれいに発音されていました)。

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2007年4月18日 (水)

化学から・その2

(the) limelight 名声・評判(ビジ英2007年4月号p.36)
もとはlime(石灰)を燃やしたときのlight(光)=「石灰光」の意味。棒状/球形に成形した石灰を酸水素炎(約2800℃)の中に置くと、石灰が熱放射を起こし強烈な白色光を発します。19世紀中ごろには、その石灰光をレンズで集光して劇場の舞台照明として使用していたそうです。昔は結構、危ないことをしていたんですね~。そこから転じて、limelight =「名声・評判」の意味となり現在に至ります。チャップリンの映画タイトルとしても有名ですね。

stir one's interest (人の)興味をかき立てる(ビジ英2006年6月号p.47,2(b))
 ビジ英では、pique one's interest 「(人の)興味を引く」の言い換え問題でした。化学実験ではstir は反応装置・容器の中を「撹拌する」という動詞でよく登場します。ちなみに撹拌する駆動力は電磁石が一般的です。

litmus test リトマス試験/試金石(ビジ英2006年6月号p.48,2nd見出し語)
 似た単語に、the acid test があります。こちらの由来は、金(きん)が本物かどうかを判別するのに硝酸(nitric acid)につけて腐食しなければ本物と判定したことから(イディオム由来辞典/三省堂)。ちなみに日本語の「試金石」は、こすりつけてできる条痕から金の純度を判定した黒色の硬い石(那智黒石)の意味で、日英で由来はそれぞれ違います。他にも、「かつては硬貨を弾いた音で本物かどうかを見分けた」ことからできた ring true (真実のように思える)という表現もあります。

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2007年3月15日 (木)

adamantane/bromide

化学や化合物の名称と、そこから派生した一般表現との間には興味深い関係がありそうです。

chemistry 親和性、相性/化学
 ex.There's no chemistry between that guy and me.
   あいつとはうまが合わない。
ビジ英(orやさビジ)の見出し語になったこともあります。ちなみに有名なデュオ「Chemistry」の名前の由来は「ボーカル2人の声が紡ぎあう様子を化学反応になぞらえて」ということでしたが、意味的にもデュオにピッタリのネーミングだと思います。同意語はaffiniy あたりでしょうか。

bromide ブロマイド
 写真の現像に使う silver bromide(臭化銀)の略から、日本語の「ブロマイド」になったようです。発音は[bro'umaid]です。おもしろいことにbromide には、「決まり文句/陳腐な考え(cliche)、平凡な人」といった意味もあります。おそらく表現、アイデア、モデルの安易な「焼き増し」のイメージを象徴しているのでしょう。ネガティブな語感があり、ちょっとbromide(臭化物)がかわいそうな気もします(笑)。日本語で「判で押したような」と表現する感覚に似ています。他に、(neutral には)決まり文句/常用文(文例集)にはboilerplate, 定型書式にはtemplate がありますが、これらの単語は元は「鋳型」を意味していたそうです。

adamantane アダマンタン(化合物名)
 これはbromideとは逆で、形容詞から逆生成(back formation)した固有名詞。化学式C10H16で6員環が3つ縮合した飽和炭化水素の分子構造(下図参照)が非常に堅固であることから、形容詞 adamant (物質や意思が)非常に固い、頑固な(頭のa にアクセント)」に、飽和炭化水素の接尾語「-ane」をつけて命名されました。
  ex. She was adamant about not using her picture.
   彼女は自分の写真を使わせないと言ってきかなかった。

Adamantane

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