学問・資格

2023年10月23日 (月)

学術用語の市民権

2023年9月22日、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は、糖尿病(diabetesの訳語として1907年から使用)の新たな呼称案「ダイアベティス」を発表しました。この背景には「糖尿」という言葉が病態を正確に表していないことや、糖尿病への社会的な誤解・偏見を払拭したいという思いがあるとのこと。「ダイアベティス」が市民権を得るかどうかは要経過観察ですが、学術用語や学名が諸事情により変更された例はこれまでにも数多くあります。今回の記事では、それらの中から個人的にインパクトが大きかったものをピックアップしてみます。

Brontosaurus ブロントサウルス
 竜脚類の恐竜として有名なブロントサウルス(O. C. Marsh, 1879年発表)は、先に見つかっていたアパトサウルス(Apatosaurus)と同じ恐竜(の属)と指摘され、国際動物命名規約による先取権の原理(principle of priority)に基づいて学術的には不使用になりました。ただし、E. Tschoppらの再研究(2015年)では、ブロントサウルスはアパトサウルスとは異なる独立属であることが示唆されており、論争はまだ続いているようです。

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color blindness 2色覚 (旧来の色盲)/異常3色覚 (旧来の色弱)
 従来より「色盲」を避けて「色覚異常」に訳語が統一されていましたが、日本眼科学会(2007年)や日本医学会
(2008年)の改訂用語ではこのように提示されました。さらに、日常生活に本質的な不便さがない遺伝形質に対して「異常」と呼称するのは違和感ありとのことで、2017年に日本遺伝学会と日本人類遺伝学会は、邦語と英語のセットで「色覚多様性(color vision variation)」という概念(教育用語)を提案しています。

dominant/recessive 顕性/潜性
 2017年9月、日本遺伝学会が遺伝学用語の改訂
(訳語のみ)を提案し、メンデルの法則でもおなじみだった「優性・劣性」が「顕性・潜性」に変更されました。その理由は、「優」や「劣」が強い価値観を含む語感を持ち、疾患を対象とする臨床遺伝分野で「劣性」遺伝のもつ負のイメージが深刻なためとのことで、「糖尿病」や「色盲」の場合と同様、ポリコレ(political correctness)的な配慮がうかがえます。

それにしても、昔学校で習った知識や以前見聞きした情報がいつの間にか上書き(無効・変更・訂正・追加)されていることがあります。上記のほかにも、計量法やJISにおける「規定度」の廃止、そのJISの和名は日本工業規格→日本産業規格に変更(英名はJapanese Industrial Standardsのまま)などなど、いろいろアンテナを張って過去に得た知見をアップデートしていかないとと痛感します。特に、のちの再調査/新発見による科学的事実や史実の修正・追加ならびに社会情勢の変化などに対応した用語・名称の変更(酸素のように市民権を得すぎていて変更不可の場合も多々ありますが)には今後も注目していきたいと思います。

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2023年10月16日 (月)

Vitreous Humor?

【緒言】視界に蚊が飛んでいるような影が見える飛蚊症(vitreous floater)の改善にパイナップルの摂取が有効であるとする研究論文(Horng, C.T.ら、2019年)を読む機会があったので、今回はその紹介と検証をしてみたいと思います。

Pharmacologic vitreolysis of vitreous floaters by 3-month pineapple supplement in Taiwan: A pilot study

【概要】飛蚊症は、眼球の硝子体(ゲル状のタンパク質)が主に加齢により収縮する過程でコラーゲン(硝子体線維)が凝集して自覚されます。上記論文では飛蚊症の被験者が昼食後に生のパイナップルを100~300 g 摂取し続けた結果、3か月後に明らかな改善(摂取量依存性あり、最大で7割改善)がみられたという結果が報告されています。

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本論文はタイトルのとおり、飛蚊症の外科治療(レーザー治療)であるビトレオライシス(vitreolysis)という用語を使いつつ、パイナップルをサプリメントに見立てた薬物学的治療(pharmacologic(al) vitreolysis)をアピールする内容(著者らによると世界初)となっています。キーとなる物質は、パイナップル中に含まれるブロメラインbromelain)というタンパク質分解酵素で、これが飛蚊症の元=硝子体中に浮遊するコラーゲン凝集体を分解するというロジックです。

【検証】まず、飛蚊症(網膜剥離など病的なものを除く)について国内外の眼科医がネットで発信している情報を整理してみました。
・加齢による生理現象で、診断後も経過観察となることが多い。
・硝子体の外科治療以外に有効な治療法は見つかっていない。
・治療介入なしでも数か月のスパンで自然解消するケースがある。
・日本の保険診療では治療法なし、自由診療でレーザー治療等あり。

以上を踏まえ、論文を読んで気になった点を以下にまとめました。
①対照群(パイナップルを摂取しない群)が設定されていない。
②作用機序を裏付ける定量的なデータがとられていない。
③眼球を構成する他のコラーゲンが分解されないのはなぜか。
④被験者数が少ない(実験1: 190人、実験2: 198人)。

まず、実験設計として高血糖値(higher blood glucose)や1日のカロリー制限(daily caloric restriction)を考慮してパイナップル摂取の上限を300 g/dayとする一方で、結果の有意性を確認するための対照群(control group)を設定していないのは大きな問題です(①)。また、仮説を実証するために硝子体中(百歩譲って血中)のブロメライン濃度を測定しておらず(②)、簡単な実験にも関わらず被験者数が少ない(④)のもちょっと残念です。さらに、ブロメラインが硝子体中で凝集したコラーゲンを分解するという仮説が正しいとするならば、コラーゲンの塊ともいえる眼球全体(例えば角膜はコラーゲン線維そのもの)にダメージがないのは最大の謎です。予備研究(pilot study)とはいえ、薬理学的なエビデンス、すなわちブロメラインの硝子体部位への到達濃度と分解選択性の裏付けが得られていないため、私がもし論文誌の査読者ならば追加実験を求めると思います。

ある海外の眼科医は、例えばパイナップルの消費が特に多いブラジルやフィリピンで飛蚊症率が低いなどといった地域性データは聞いたことがないと言っていました。正直、私も本論文の内容については懐疑的な印象を持ったため、この記事のタイトルは硝子体(vitreous humor)と硝子体(液)にまつわるユーモアをかけて「Vitreous Humor?」としてしまいました。本研究の発表後、他の研究チームが追試や反証をした報告はないようで、同じ著者らによる続報も読みましたが結局よくわからないというのが現状です。ただし、最近の研究によればブロメラインには抗炎症性・免疫調節性・抗酸化性やこれらを介した潜在的な抗癌効果があるともいわれており、関連する研究の動向にも引き続き注目していきたいと思います。

【追記】ブロメラインは酵素なので加熱処理をしたパイナップルの加工品(缶詰やジュース)では不活化されてしまっています。また、パイナップルは糖分の高い果物である上に、アレルギーや服用中の薬(高血圧の薬や抗生物質の一部)との飲み合わせで問題が生じる場合もあるそうなので、過剰摂取には十分な注意が必要です。

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2008年12月13日 (土)

LOGY

「…学」を意味する接尾辞「-logy」
 一般に『学問の内容を示す)語幹+ology』となります。「o」は英語で複合名詞を作る「接着剤」で、この場合にはこのoに強勢が置かれるのが特徴です。その学問を研究する学者は「-ologist」となります。例は数限りなくあるので、今回は語尾が何となくかわいらしい音の「-cology」となる学問にフォーカスしてみました。

ecology 生態学
mycology 菌学
(舞妓学ではありません・笑)
oncology 腫瘍学
pharmacology 薬(理)学
phycology 藻類学
(綴りが心理学に少し似てます)
psychology 心理学
(-chologyですが発音が同じ)
toxicology 毒物学

最近では、ガン患者のメンタルケアを研究するpsychooncology(精神腫瘍学)という学問もあるそうです。

「~学」とならない「-logy」
 「-logy」はラテン語由来の接尾辞で、「言語」・「論理」といった意味を持ちますが、上述した「~学」は「論理」が特化・体系化した一形態です。一方、次に挙げる例は、「-logy」が言語や論理という概念そのものとして語形成に使われているものです。

cacology 言葉の誤用 <caco(悪・誤) *「カッコゥ(caco)悪い」と覚えます
eulogy 賛辞/追悼 <ラテン語eulogia (eu-よく+logia話すこと)
 *-logyの直前がoではないことで判別可能
misology 理屈・議論を嫌うこと <miso(嫌う)+logy(論理)
 *mythology(神話学)に似ているので注意。
tautology (無用な)類語の重複、トートロジー <tauto(同じ)
 ex. false lie, black darkness, Sahara Desert(=Deserts Desert)
terminology 専門用語/術語学

今日の一句↓
Misology goes with mythology.
神話学には議論敬遠が付き物。 

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2007年7月28日 (土)

数学表現

いや~暑いですね~。気分転換にブログの背景を涼しげに変えてみました。

ビジ英(7月号p.36,3rd見出し語)で multiply (増加する)が出てきました。その説明としてクリスさんが英語の掛け算の表現を紹介していましたので、今回は数学表現をまとめてみます。

<読み方の原則>
●等式(equation)の等号「=」には他動詞 equal を充てる(口語では is、make も可)
●分数(fraction)は分子(numerator):基数→分母(denominator):序数の順。
 *ただし、分母の数字が大きい場合は分子分母を基数で読み両者を over でつなぐ。
●累乗(power)は序数(ordinal number)で。
  のn乗は「  to the th power」
 * の2乗/3乗は「  squared/cubed」が普通。
●根(root) n√ の n は序数、 は基数(cardinal number)で。
 n√ (= のn乗根)は「the th root of
 * の平方根は「the square root of 」が普通(root radical も可)。
 * の立方根は「the cube root of 」も可。

<四則演算(four arithmetic operations)>
●足し算(addition) 2+3=5
 Two plus three equals five. 
●引き算(subtraction 3-2=1
 Three minus two equals one. 
●掛け算(multiplication) 2×3=6
 Two multiplied by three equals six.
*口語では Two times three equals six.. もOK。
●割り算(division) 10÷3=3 余り 1
 Ten devided by three equals three with a remainder of one.
 * 3 into 10 is 3, remainder 1. も可。

●等比 2:3=4:6
 Two is to three as four is to six.
 そういえば、as の代わりに what を用いる表現がありました。
 Leaves are to the plant what lungs are to the human.
 葉の植物に対する関係は、肺の人間に対する関係に等しい。 

round (off)round upround down 四捨五入する/切り上げる/切り捨てる
What is 7777 rounded to the nearest thousand?
 7777を千の位に四捨五入すると何になりますか?
If two point six is rounded up to the nearest whole digit, it becomes three.
 2.6を切り上げて整数にすると3になります。

表計算ソフト「エクセル」をお使いなら、ROUND系の関数としておなじみかもしれません。ちなみに、Roundup という名前の農薬(除草剤)もあります。こちらは、round up の「一網打尽に捕らえる/(問題を)片付ける」という別の意味からの命名ですね。

●その他の表現
Fibonacci sequence フィボナッチ数列(前2項の和=次項)
golden ratio 黄金比(1:~1.62)
Pythagorean theorem ピタゴラスの定理

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