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2024年1月

2024年1月29日 (月)

ガチョウ騒動について

つい先日、ガチョウ(goose/geese)にまつわる翻訳記事が原因でちょっとした騒ぎがありました。それは、昨年末から年初にかけてJRA短期免許を初めて取得し日本競馬に騎乗していたL. Morris騎手(英国)が、自らの申請で免許取消、予定より1か月早く帰国して英国メディアに「I couldn’t turn geese into swans.」とコメントしたことに端を発します。日本のS社は、彼のコメントを「ガチョウを白鳥には変えられない」と直訳してネット配信したのですが、これが騎乗馬の質が悪くてどうにもならなかった(日本での通算成績:80戦1勝)という「捨て台詞」として受け取られ、日本で同騎手を批判する声が相次ぐ事態になりました。直訳記事はその後まもなく「長所を最大限に引き出すことができなかった」という同騎手の反省の弁に訂正されましたが、すると今度は批判の矛先がMorris騎手からS社に移り、「turn geese into swans」は「長所を最大限に引き出す」という意味の慣用表現なのだから誤訳(直訳)には悪意がある、Morris騎手に正式に謝罪すべきとの意見が出る始末・・・

ところで、私は「turn geese into swans」が上記の意味の慣用句だという話には懐疑的です。ただ、「All his geese are swans. (自分に身近な人やものは全てよく見えるものだ.)」という諺は有名なのでgoose (geese)とswan(s)の対比はしっくりきます。そもそも「What a goose! (なんてバカなんだ!)」という表現があるくらい、英語圏ではガチョウにあまりいいイメージがないので、Morris騎手のコメントに「ガチョウ=駄馬」という皮肉はなかったとしても、これを長所云々と訳すのはちょっと飛躍している感じがしました。

となるとこれは文脈上の意訳かと思い、英国レーシングポスト紙の元記事を読んでみました。すると該当箇所は「I had just the one winner and many places, but it’s quite tough going and I worked out that the average SP (管理人注: starting price) of my rides was 54-1. I soon realised that I couldn’t turn geese into swans.」となっていました。つまり、Morris騎手は、事実としてオッズで低評価だった自分の騎乗馬(ガチョウ)を勝ち馬or着順上位馬(白鳥)にすることはできなかったと冷静に状況分析をしているわけです。私がもしコタツ記事を書くとしたら「私が勝てたのは1度だけで2、3着は何度もありましたが、状況はかなり厳しく、計算したら私の騎乗馬の平均最終オッズは55倍でした。この低評価を覆して大きな成果を上げるのは難しかったとすぐ理解しました。」という感じになります。昨今のメディアやネット民は「切り取り」がすぎるので、S社も無難に意訳しておけばいろいろとカドが立たず、炎上拡大阻止のため妙な訂正でお茶を濁すこともなかったかもしれません。

ちなみに、元記事の中でMorris騎手は、今回の日本での騎乗をタフだが素晴らしい経験だったと述べ、JRAへの深い感謝や再来日への意欲も示しています(なので捨て台詞を吐くわけがありません)。公式には「一身上の都合」とされている早期帰国の理由も、騎乗停止処分(2/3,4)を受けたこととJRAは土日しかレースがないので、とビジネスライクな対応(短期免許取消と同日(1/24)に早速英国で騎乗再開)だったことが明かされています。

それにしても、今回の騒動は洋の東西を問わず「白鳥がガチョウよりも優れている」という共通認識(見た目?or ガチョウ=家畜だから?)が根底にあり、ガチョウにとっては相変わらずかわいそうな役回りでした。ですが、そのガチョウにも「golden goose (無限に利益を生むもの)」という最強のポジティブ表現があります(イタリアの人気アパレルブランド名にもなっています)。これは「kill the goose that lays the golden eggs (目先の利益に目がくらんで将来の利益を台無しにする)」という慣用句と同様、「黄金の卵を1日に1個ずつ産むガチョウ(golden goose)を持っていた男が、一度にたくさんの黄金の卵を手に入れようとしてそのガチョウを殺してしまった」というイソップ寓話に由来しています。いつか「○○○グース」と名付けられた競走馬にMorris騎手が騎乗してスワンS (GII)を勝ったら最高のリベンジになりますが、その確率は・・・オッズで555倍くらいでしょうかw


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「金の卵を産むガチョウ」は時々
 なぜか全身も金色で描かれます。

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2024年1月22日 (月)

アワード vs. アウォード

今回は「award」の発音にまつわる雑談回です。日本語で賞を意味する「アワード」が定着してから大分時間が経った気がしますが、awardの発音は[əwɔ́rd (US)/əwɔ́ːd (UK)]なのだから、日本語もアウォードとするべきだという人がいます。なぜなら「Star Wars」は「スター・ーズ」ではなく「スター・ウォーズ」ではないか、と。実は外国語の言葉を日本語に取り入れる場合には字訳、音訳、または意訳があり、どれが採用されるかはその言葉次第なところがあります。このawardに関しては、アワードが字訳でアウォードが音訳ですので、字訳が広く受け入れられているという現状です。心配なのは、英語を喋るときに綴りやカタカナ語に引きずられて発音を間違えてしまうことですが、それはawardに限らずよくある話です。綴りでいうと、spinach(ほうれん草)はスピッチではなくスピッチ [spínitʃ] と発音するのが個人的には最もインパクトがあるトラップです(ほかにも、bury [bri], women [wmin] など)。

さて、実際にググってみると検索結果数はアワードが全体の99%以上(アワードとアウォードの二択で)を占めており圧倒的でした。言葉は「一度定着したものは回収しがたい」性質があるので、この状況だとアウォードがメジャーになることはほぼないかもしれません。そんな中、果敢にもあえてマイナーなアウォードの方を公式に採用している団体や組織があるのか調べてみると以下の2つが見つかりました。

Jリーグアウォーズ((公社)日本プロサッカーリーグ (Jリーグ))

東京ドラマアウォード((一社)日本民間放送連盟)

やはり、アウォード派を探すのは一苦労で、ほとんどがアワード派でした。上記の2団体(社団法人)には「アウォード賞 (AWARD AWARD)」を差し上げて、その勇敢さを称えたいと思います。ちなみに、NPB AWARDS(プロ野球)や B.LEAGUE AWARD(プロバスケ)など、あえて英語のまま(発音は謎ですが)にしている団体もありました。

外国語の単語をカタカナ語にする場合、音訳には原語自体の発音ゆれの問題や音声学的な限界がある一方、字訳に頼ると原語の発音からは遠ざかることになります。ダイアベティス(糖尿病の代替語候補)もそうですが、学術用語には字訳が多い印象です。ちなみに、日本化学会には化合物の化学名(メインはカタカナ表記)が一通りに決まる字訳基準表があります。例えば、化学物質のxyleneは、日本語では字訳により「キシレン」となりますが、英語では「ザイリーン [záiliːn]」なので発音にはかなりの開きがあります。学術界で字訳を採用する理由としては、原語の発音を犠牲にしても表記ゆれをなくすことを優先し、論文や特許の正確な検索をしやすくするメリットなどが考えられます。

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 この賞は「アウォード・アワード」と読みます。

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2024年1月15日 (月)

Mnemonic Aids

今回は mnemonic (aid)=記憶を助けるもの、つまり単語などを暗記してすらすらアウトプットするための語呂にフォーカスします(過去記事でもpunとして少し触れています)。まず、mnemonic という単語自体が覚えづらいわけですが、私は鶏のムネ肉をイメージして「ムネも肉」と覚えています(ただし実際の発音は冒頭のmが黙音なので注意です)。以下、前半は綴りや発音が難しい(と思う)英単語の覚え方、後半は英文法(概念)関連の有名な覚え方をそれぞれご紹介していきます。

<単語編>
bleary [blíəri] ぼやけた
 意味を「ブレあり」でぼやけた、と覚える。

Caribbean [kəríbiənカリブ人[海] (の)
 ①「カリブ豆(Carib+bean)」でカリビアンコーヒー豆を意識。
 ②「カリッビアン」を意識してbbとダブる。
 「カリブ語」はCarib [kˈærib]。

dinosaurs [dáinəsɔ̀rz恐竜(複数形)
 綴りをディノサウルス(架空の恐竜)と覚える。発音に要注意!
 単数形は最後にs [z] がない。

・euthanasia [jùːθənéiʒə] 安楽死
 発音を youth in Asia(アジアの若者)と覚える。ネイティブ直伝。

hierarchy [háiərɑ̀rki] ヒエラルキー、階層
 発音を Hi, Araki!(はーい、荒木!)と覚える。

juxtaposition [dʒ`ʌkstəpəzíʃən] 並置二物衝撃(俳句)
 意味を、熟したポジションの俳人の円熟テクニック=「二物衝撃」と覚える。oxymoron(撞着表現)もその1つ。

mnemonic aid 記憶を助けるもの(語呂など)
 最初のが黙音であることに注意しつつ、綴りを「ムネも肉」と覚える。
 語源は mnesia 記憶(ラテン語)。cf. amnesia 健忘症 (a=否定の接頭辞)

ruddy 血色のよい
 綴りは、血液が流れてddとダブる。
 cf. ruddy Rudy 血色のよいルディ
 cf. ruddy apple 真っ赤なリンゴ(<An apple a day

vulnerable [vʌ́lnərəbl] 脆弱な/傷つきやすい/(経済が)不安定な
 意味を「バーナー(で)あぶる」と脆くなる、と覚える。
 cf. (gas) burner (ガス)バーナー

<文法編>
FANBOYS:7つの等位接続詞⇒ for, and, nor, but, or, yet, so
 基本は、[第1文], 等位接続詞 [第2文] のように使います。
 ×[第1文]の後にコンマを打っていきなり[第2文]を続ける
 ×[第1文] 等位接続詞 [第2文] (文同士が短い場合を除く)
 [結果の文], for [理由の文]。倒置しない(becauseと同様)
 yetは逆接の等位接続詞で、butよりも意外感が出る
 soは口語的(文頭のSo(接続副詞)は特に)⇒論文ではNG

CHIN FAT TO MOM:12個の接続副詞(文語調)
⇒consequently, however, indeed, nevertheless, furthermore, as a result, therefore, thus, on the other hand, moreover, otherwise, meanwhile
 文語では、[第1文]; 接続副詞, [第2文] の使い方が便利です。

BE WISE AT WAR:11個の従属接続詞
⇒because, even if, when, if, since, even though, although, though, while, as, whereas
 ①[主文] 従属接続詞 [従属文] or ②従属接続詞 [従属文][主文]
 ②の「,」は倒置のコンマ(cf. Joe Shimamura=Shimamura, Joe)
 because+[初出の理由]は①、since/as+[既知の理由]は②の形
 whereasの意味でwhileを使わない(The ACS Style Guide)

MEGAFEPS(メガフェプス)動名詞だけを目的語に取る動詞
⇒mind, enjoy, give up, avoid, finish, escape, practice, stop
 追加でPACSMIDA(パクスミダ)(韓国語っぽい自作の語呂)
  postpone, admit, consider, suggest, miss, imagine, deny, advise

MPTルール副詞(句)の基本的な配列順序
 
[主語]+[動詞](+[目的語])+[方法(Manner)]+[場所(Place)]+[時間(Time)]
 ただし、副詞句の長さに割と差があるときは短い方が前に来る

学生だった頃、『英単語連想記憶術』(青春新書) なる本を買ったことがありましたが、その中に「ラーメン食べる(lamentable悲しい受験生」というフレーズがあったのを今でも覚えています。実際の発音は [ləméntəbl] で少し違うのと、ラーメンは ramen です、とツッコミをしたくなりますが、それが気にならないくらい語呂も良くて秀逸な作品です。そういえば「r」の発音を苦手にしている日本人が自虐的に言う「日本のラーメンは他の国と違って lamen と書くんですよ」というジョーク(from 杉田敏先生)を思い出しました。
  

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LAMEN
日本のラーメンは一味(一文字)違う!

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2024年1月 8日 (月)

語形成の突然変異

SNSの発達もあり、新しい単語が言語やジャンルを問わず加速度的に生み出される時代になりましたが、新語の生成条件の1つには、大多数の人に受け入れられる発音の容易さ、語呂(覚えやすさ)、直感による分かりやすさなどが挙げられます(その意味では糖尿病の代替語候補=ダイアベティスは不利?)。さらに、歴史(文法)や文化(流行)などといった要素が世の中への定着を後押ししやがて辞書に載るのがサクセスストーリーですが、その過程では規則性よりもイメージが優先されることもあるため、語形成にはさまざまな「突然変異」が起こると考えられます。今回は、比較的メジャーな語形成パターンを題材にして、英語と日本語の比較も交えながら、興味深い新語生成の一端に触れていきたいと思います。

新古典複合語の語形成
古典ギリシア語や古典ラテン語を由来とする造語要素(古典造語要素)をつなぐことで新しい単語が形成されます。これは古語と古語の掛け合わせで新語を生み出す、いわば言語学上の「反転術式」です。学術用語(特に医学用語)に多くみられ、例えば、osteoporosis(骨粗しょう症)は古典ギリシア語の骨(osteo-)、孔(-poro-)、病態(-sis)から成り立っています。興味深いことに、造語要素のつなぎ目(語尾)は「o」となっていることが多く、最近では造語要素が現代英語の名詞や形容詞で「造語要素+接合辞(主にo)+造語要素」のように語形成される傾向があります(例:methodology (方法論)、sociolinguistics (社会言語学))。

イメージによる語形成
流行が規則性を超越すると突然変異型の語形成が生まれます。例えば、本ブログでも取り上げたことのある「~中毒の」という意味を与える接尾辞(もどき)は、元はalcoholic(アルコール中毒者)の後半部分がちぎれたもので、「中毒の対象+a (対象がa、oで終わる場合はナシ)+holic」のように新語を量産できます。また、鉱物系接尾辞の「-ite」は、発音の都合か元々語根の最後(の子音字)が「l」となる石が多かったためか「-lite」と異形化する場合(cyrtolite、iolite、roselite等)も多く存在します
。一方、日本語の変異例としては「アムラー現象」が挙げられます。つまり、シャネラー⇒アムラー⇒パフィラー、アユラー、マヨラーのように新語が生まれ、アムラーの強い影響で最終的にはラ行で終わらない対象にもラーを付ける「変異」が起こっています。これらはいずれもイメージ重視による語形成です。

②を書き終わった後、過去記事を読み返していたら Green Wedding の復習 の最後に似た内容(vegetable⇒vegetarian)を見つけてびっくり。今回、実に16年を経て少しだけまとまった記事になりました。普段から考えていることはあまり変わってない?という説が濃厚ですが、記事の数も気づけば300近くになっているので、掘り起こし作業からの再発見や再考察も楽しいかもしれません。


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ボクの名前はガンビー(サイヤ人)。

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2024年1月 1日 (月)

歌詞に学ぶ言語楽 (Vol. 1)

新年明けましておめでとうございます。年末年始はTVで歌番組を見ることも多く、最新の曲を知るよい機会です。近年は特に歌詞の難化と多様化が進み、一度聴いただけで全歌詞をフォローするのは難しく感じます。今回はそんな最近の楽曲から受けた言語楽(学)的刺激のいくつかをゆる〜くご紹介していきます。

NewJeansDitto⇒韓国の5人組ガールズグループ「NewJeans」の表記はスペースなしで一気に綴るキャメルケース、曲名のdittoは「同上」の意のラテン語由来の名詞(そのまま形容詞や副詞にもなる)。歌詞ではSo say it ditto(だから私と同じ気持ちって言って)と口語調で使われています。ちなみに、英語の論文や成書で同じ引用文献を2回目以降に記載する場合、重複を避けてdittoと書かれることがあります。

あいみょん愛の花⇒あいみょんと言えばまず!この歌も2番のサビに「涙は枯れない 明日へと繋がる」と脚韻がしっかり。そして効果的なショートリフレイン。冒頭から「言葉足らずの愛を 愛を貴方へ 私は決して今を 今を憎んではいない」とAメロでは珍しい目的語の繰り返し。これはいわゆるディスコース理論の変法とも言えます。1番のサビでは「空が晴れたら 愛を 愛を伝えて 涙は明日の 新しい花の」とレトリックが満開です。

Adoクラクラ』⇒アニメ『SPY×FAMILY』シーズン2の主題歌。アニメの設定、曲のタイトル、コーラス(Two-Sided Two-Face)のとおり「二面性のゆらぎ」がテーマ。Ambivalentな世界で迷いがちになっても「間一髪がスタンダード」や「正しい間違い」など前向きなoxymoronが新鮮でパワフルなナンバーです。ちなみに、two-sided testだと「両側検定」で、統計学ではおなじみ。

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制服を着たダンス&ボーカルユニットが世界中で大活躍。
ジャンルを越えて五音音階 (pentachord) も健在です。

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