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2023年12月 4日 (月)

ゴロピカの不一致

今回は、偶然か必然か、日本語と英語で慣用表現が酷似している「青天の霹靂」と「a bolt from the blue」を取り上げ、深堀りしていこうと思います。

a bolt from [out of] the blue 青天の霹靂
三省堂「英語イディオム由来辞典」によれば、この英語表現はT. Carlyle (British essayist, historian, and philosopher, 1795–1881) がドイツ語の ein Blitz aus blauem [heitrem] Himmel(青空[晴天]からの稲妻)を英訳したのが最初で、さらにその元ネタは船乗りの守護聖人St. Elmoの復活伝説だそうです(諸説あり)。前にlike又はasを付けて口語で用いることが多く、thunderbolt(雷電・落雷)の一語だけでも同じ意味で使えます。それにしても「青天の霹靂」は見事な対訳で、はじめは英語の直訳なのかと思いました。ただ、よく考えてみると「霹靂」は雷鳴(thunder)で、boltは電光・稲妻・稲光(つまり日本語と英語はゴロとピカの関係)とちょっとイメージが異なるため、調べてみるとやはりルーツも違っていました。

日本語の「青天の霹靂」は、中国(南宋時代)の詩人・陸游(りくゆう、Chinese historian and poet, 1125–1210)が書いた詩の一節「青天飛霹靂(突然すごい勢いで筆を走らせたことの比喩)」が中国語として「青天霹靂」に縮まり、それが日本に伝わったのだとか。なので、晴天と書くのは厳密には間違いで(同音同義語なので実質的に問題なしとも言えますが)、青天を英語のblueとセットにして覚えれば間違いがなさそうです。いずれにしても、最初は筆の勢いを音に例えた表現でしたが、のちに「突然起こった出来事」の比喩で使われるようになったというわけです。

このように、言語も由来も異なるのにたまたま似通った表現になっているのは言語学上非常に興味深いですが、英語を正確に理解するという観点からは少し気になっていることがあります。それは日本語の「サンダー」(thunder) の多用問題です。日本語ではなぜか「雷」をモチーフとする商品やキャラクター等に対してボルト(ピカピカ)よりもサンダー(ゴロゴロ)を当てる傾向が強く、そこに稲光のロゴやイメージを関連付けるため「サンダー=稲妻」であると誤解しやすい環境が生まれている気がします。

例えば、アニメ「初代プリキュア」の必殺技「プリキュアマーブルスクリュー」はブラックサンダーとホワイトサンダーという2種類の雷が混じり合って発射される電撃で、白と黒の光が強烈な印象を与えます。また、チョコ菓子の「ブラックサンダー」のパッケージには稲光が描かれ、「黒い雷神」や「おいしさイナズマ級!」という文字が入っています。このように、色を表す形容詞がサンダーに付いてしまうと、サンダーが音ではなく光として認知されがちです。そういえば、任天堂ゲーム「マリオカート」で雷を落とすアイテム「サンダー」も稲妻がモチーフでした。



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ほかにも、アリスの「冬の稲妻」は、突然去っていった恋人を冬の稲妻に例えた名曲ですが、その歌詞の「あなたは稲妻のように」と「You're rollin(g) thunder」がシンクロし、やはり「thunder=稲妻」として印象付けられるかもしれません(rolling:鳴り響く)。

気象庁のHPで確認したところ、雷とは「大気中で大量の正負の電荷分離が起こり、放電する現象」で「放電する際に発生する音が雷鳴で、光が電光」という明解な記述がありました。この雷の音と光を同時に表現したい場合、日本語には「雷電」という熟語が、英語には前述の「thunderbolt」という便利な単語がそれぞれあって、おそらく日本では「サンダーボルト」を使うべきところを、慣例、長さ、語呂といった理由から「サンダー」が愛用(で代用)されているものと考えられます。一般に、比較的長い単語やフレーズで重要な核となる部分が省略されてしまうケース(例:初代ウルトラマン→初代マン→マン)はままあることですが、サンダーボルトの場合は、サンダーとボルトという2つの並列概念のうち「文字はサンダー、ロゴはボルトを使う」といったややこしい現象が起きています。

さて、言語の歴史にエラーはつきものですし、そこがおもしろいところでもあります。今回のように語の持つ本来の意味と語が与えるイメージが何らかの理由でチグハグになってしまっている現象は結構あるような気がしますが、さすがに名前が付くほどメジャーではないと思われます。そこで、こういった現象について、上述の「サンダーボルト」を代表例に据え、遠方の雷のゴロゴロとピカピカが同時に体感できないことにもなぞらえて「ゴロピカの不一致」と名付けたいと思います。

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