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2009年3月20日 (金)

本質直近の原則(revisited)

英語は配列の言語だと言われます。以下に示す(1)や(2)は語順、とくに修飾語の配置に関する原則の例ですが、昨秋、修飾語が被修飾語にとって本質的であればあるほど被修飾語の近くに置かれることを見出しました。私はこれを本質直近の原則」(注:造語です)と呼んでいます。今回はさらに内容を追加して考察してみたいと思います。

(1)情報伝達の語順(日高先生時代のビジ英textの巻末より)
 原則として、

WHOWHATHOW (Manner)WHERE (Place)WHEN (Time)

(a)MPTルール:WHAT以降の副詞(句)の順序(頭文字で覚える)
[主語]+[動詞](+[目的語])+[方法]+[場所]+[時間]
*述部に対して本質的な情報であるほど述部の近くに配置
ex. The meeting was held secretly in Yokohama on April 12.

  会合は4月12日に横浜で内密に行われた。

(b)名詞構文ルール:動詞の名詞形を修飾する前置詞句の順序
[動作名詞][of+目的語]+[by+主語]+[for+目的]etc.
*動作にとって目的語・主語は最重要情報、次に目的・手段等

 ・[of+目的語]と[by+主語]の語順は入替可能
 ・目的語がないときは[of+主語]としてもよい
 ・目的語か主語を所有格にし、名詞の前に置くことも可能
ex. the government of the people by the people for the people
  人民が自らのために自らを統治すること(リンカーンの演説)


(2)形容詞の配置のルール(たいていの文法書には記載あり)
 原則としてその特性・属性がより本質的・具体的な形容詞ほど被修飾名詞の近くに置かれます。
人の場合
数→見た目の印象→背格好→老若→国籍」+人

 two tall young American ladies 背の高い若いアメリカ人女性2人
物の場合
数→見た目→大小→新旧→形→色(→国籍)→材質」+物
 an old square black leather wallet 古くて四角い黒革の財布

*注)all,bothは一番最初、「形容詞的用法の名詞」は被修飾名詞の直前
*形と色の語順に関する考察はこちら

 ところで最近、「本質直近の原則」が日本語にも当てはまるかもしれないと思うようになりました。例えば、ある技術者が「Aという原料から、Bという触媒を用いて、Cを作る」新しい方法を見つけたとします。この発明に関する特許(国内)を申請する際に、より好ましい「発明の名称」は次のどちらでしょうか。

a. 新しいAを出発原料とするB触媒を用いるCの製造方法
b. B触媒を用いるAを出発原料とするCの新しい製造方法

 本質が直近、つまり、「より本質的な修飾語はより近くに置く」に従うと、まず特許出願で最重要の新規性を示す「新しい」が製造法の直前におかれ、次に原料、手段、の順に近くに置かれるとb.のようになります。一方、a.は原則を無視して並べたものですが、これだと{[(新しい→A)を出発原料とする]→B触媒}を用いるCの製造方法、のように誤解されるリスク(トラップリスクと呼ぶことにします)があります。この表現だと、新しいのはAという物質で、そのAがCではなくBの原料ということになってしまいます。あくまでa.の語順で通そうとするなら、「新しい、Aを出発原料とする、B触媒を用いるCの製造方法」のように読点を打たなければならず煩雑になります。結論として、bのように本質的な塊を順番に大きくしていくことで、結果的に意味の誤解されにくい安全な構造が出来上がります。ちなみにb.を英訳すると、「A new method of synthesis of C from A (by) using catalysis B」となり、本質直近の原則にきちんと従います。
 上記はほんの一例だと思いますが、日本語の文章作成において、もし修飾語・修飾句を置く順序に悩んだら、「本質直近の原則」が役立つ場合があるかもしれません。ひょっとしたらこの原則には言語種によらない普遍性があるのかも・・・???。

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コメント

1回読んだだけではむずかしくて理解できず、2,3度噛みしめながら読んで、なるほどと思いました。

そして、あえて反論の要素はないかを考えながら、再度読んでみました。というのも、形容詞の順序を、文法書で目にすると、この順序って日本語ではどうなんだろう?と時々思うものですから…

たとえば、long dark hairを日本語で言うと「長くて黒い髪」と「黒くて長い髪」だったら、私は後者のほうが自然に響いてしまうのですが、日本語文法としてはどうなのでしょうね?

でも、「長い」と「黒い」くらいならどちらが先でもそれほど問題ないけど、「新しい製造法」の例では、たしかに、「新しい」を先に持ってくると誤解を生じ、文章としても稚拙なかんじがしますから、順序は大切になってきますよね。


montoさん
英語の形容詞の語順については、英語=「配置の言語」というよりも、感性や文化を反映した言語形成の違いのようなものを感じます。例えば、「形より色の方が本質的」とは物理学的に奇異ですが、英語において「色」はかなり固有性の高い属性のようです(色にまつわる英語イディオムが多いのも納得)。日本語の場合、色彩が自然や季節の中で刻々と変わることに敏感なためか、英語ほどは「色」に固有性を求めない気がします(というか、形容詞に限らず日本語の語順ってあいまいですよね)。日本語を書く身としては、冗長さを防ぐため、「長い黒髪」や「黒い長髪」のように熟語を使ったり、記事で述べた(万国共通の!?)「本質直近の原則」を意識したりして、少しでもわかりやすい表現を心がけようと思います。
そうそう、以前立ち読みした英文法の本には、「形容詞の語順」の説明の最後に一言、「実際にはこんなに多くの形容詞が一度に並ぶことはありません」というオチ?が書いてありました(笑)。

【やまちゅう@管理人】

投稿: monto(返信付) | 2009年3月23日 (月) 00時15分

やまちゅうさん、ふと、思ったのですが、日本語の場合、名詞を修飾する語には大きく分けて形容詞と形容動詞がありますよね。あと、連体詞ってのもあったか。まあ、連体詞は脇に置いて、形容詞と形容動詞だったら、形容詞のほうを名詞の直前に置くほうが、聞きやすいかな、と思いました。「長い柔らかな髪」より「柔らかな長い髪」のほうが聞きやすい気が。形容詞と名詞の間に、他の品詞が入り込むと、間を引き裂かれたような心地悪さを感じる気がするのは、私だけではないですよね?うんっ?私だけ?

相手がやまちゅうさんなので、安心して、書きたいことを書いてしまいました。たいていの人は、この手の話題はどうでもいいことだとして、興味は持ってくれないもの!

少しでも、わかりやすい表現を、というのは大切な点ですね。何語を書く場合でも。


“形容詞と形容動詞だったら、形容詞のほうを名詞の直前に置く”
これは言ってみれば「非独立形不可分の法則」の品詞間ヴァージョンですね。言われて気づいたのですが、確かに形容動詞は形容詞に比べて(字数が多い分?)独立性が強く、多少離れた位置からの修飾でも違和感が少ないように感じます。今後、文章作成時には意識してみたいと思います。
montoさんは言葉に関してまるで作家のような感性をお持ちですね。出版の暁にはきっと立派な本を書かれるんだろうなぁと思います。こういった議論、大歓迎ですので遠慮なくカキコして下さい!

【やまちゅう@管理人】

投稿: monto(返信付) | 2009年3月25日 (水) 00時03分

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